タイトル:銀河鉄道の夜
著者:宮沢 賢治
紹介者:鈴木 美咲
内容紹介:(Amazonより)
貧しく孤独な少年ジョバンニが、親友カムパネルラと銀河鉄道に乗って美しく悲しい夜空の旅をする、永遠の未完成の傑作。
銀河鉄道の夜っていったらとても有名だね。
有名でしょ。
カンパネルラ。
普段読み返すのは文庫版なんだけど、今日は漫画版も持ってきた。
猫のやつね。アニメとかもいいよね。
いいよね。
なんかふしぎなお話しだよね?
そもそもさ、銀河鉄道の夜って完成してないんだよ。
えぇ、そうなんだ?
宮沢賢治の本ってけっこういろいろ好きなんだけど、生きてる間に出した本って2冊しかなくて。
「春と修羅」と「注文の多い料理店」だけで、銀河鉄道の夜は書いてるんだけど、何回も何回も書き直して、書き直している途中で終わってるのね。死んでるの。
えっ、すごいね!?「俺はこれを書ききった」って完成品として出してるのは2冊しかないの?
それしかないの。
すごっ。
わたしも詳しく読み比べたことはないけど、銀河鉄道の夜も本によって使ってる原稿が違うらしくて、ちょっとずつ違うんだよね。その未完成感にも惹かれるし、言葉づかいも素敵なんだけど。
これは小さい頃に読んだ?
小っちゃい頃に読んで、たびたび読みかえして。今日紹介する他の本もそうなんだけど、好きな本は何度も読み返すから、読み返すたびに自分が引っかかるところが違うじゃない。
最初読んだ時にひっかかったのはサソリの話なんだけどさ…。
サソリの話ってどんな話でしたっけ?
物語の中で鉄道に乗ってる間にいろんな銀河の、いろんな話が出てきて。サソリ座の光を観た時に出てくる話なんだけど。
サソリがいろんな生き物を殺して生きてきて、最後死ぬときにイタチに追いかけられて、一生懸命逃げたら井戸に落ちておぼれて死んじゃうんだよね。それでサソリは「死んじゃうんだったらこの体を誰かにあげれば良かった。」ってって後悔して死ぬの。
あぁ…なるほどね。なんかすごいお話しだ。
そう、なんか結構衝撃的な小話が一杯入ってるの、銀河鉄道の夜の中に。
大事な何かが散りばめられているんですね。
散りばめられてる。
久しぶりに見たなこの猫の絵。ジョバンニとカンパネルラ。カンパネルラはいなくなっちゃうのか。カンパネルラは既に亡くなってるってお話しでしたっけ?
そう。
ちなみにカンパネルラが亡くなってるっていう結末は最後の方に書き直された原稿のもので、初期の全然違う結末のストーリーが、ますむらひろしの漫画本の中に「ブルカニロ博士篇」として収録されていて、読み比べて見ると初期の方が賢治の思想が色濃く出ていて興味深い。
へぇ、知らなかった。
全然子供向けの話じゃないんだよね、これ。
そうだね。
なんかさ、ただの童話作家のように思われるけどさ、ものすごい仏教徒なわけ。それで「いかに救われるか?」みたいなのをいろんな童話にこめて書いてたりするの。
宮沢賢治展に行ったとき、「雨ニモマケズ」って詩があるじゃない?あれって、発表するために書いたようなものじゃなくて、こんな小っちゃい手帳にびっしり書いてあるわけ「こういう人に私はなりたい」とかって。
凄いね。
同じ手帳にさ、もう死ぬ頃にひたすらお経をずーっと書いてたりしてさ。
心の声みたいなものをただ書いてる手帳に「雨ニモマケズ」って書いてあるんだ?
そうそう。それを知って読むとすごい衝撃的な詩なわけ。でも銀河鉄道の夜は、なんかそういういろいろと凄い人なんだけど、それをこんなに美しい物語に仕上げちゃうっていのうがすごいなって思って。
その苦しみとかもさ、そのまんま出すんじゃなくて「こうやって作品に出来るんだ!」っていのうがさ、読むたびに心が洗われるっていうか。
たしかに。こういう事を悩んでるとか、苦しんでるっていうのを「そのママ」出すのはできるけど、そんなの誰も読まないから。
そう。
読んでいてつらいし。
そういうのじゃなくて、人によっては「あぁ、綺麗なお話しだったな」でさらっと終わるかもしれないし、「ここにひっかかって、あそこにもひっかって」ていう人もいるかもしれない。そういうものを作れるってすごいなって思う。
すごいよね。
宮崎駿とかがすごいなって思うのは、ほんとに日本中、世界中で受け入れられている「ドメジャー」なものを作ってるのにも関わらず、その「ドメジャー」なところでちゃんと宮崎駿が伝えたい、哲学とか、生き方とか、いろんなもの詰まってて。なんか、そういうのってほんとすごいですよね。
なかなかいないよね。今の時代の作品とか、JPOPの歌とかって「分かってくれ!」って感じじゃん(笑) 。
確かにね。
あれって、面白くはないじゃない。
これは時代の流れなんですかね?どんどん表現がシンプルになって「まっすぐなメッセージが心に響く」みたいになるじゃないですか。
人間がさ、単純になっているだけなんじゃないって思うけど(笑)。
そうなのかな。それって、その先はどうなるんですかね? どんどん、シンプルなストレートな言葉になったら。
たぶん、皆が複雑に考えすぎて疲れちゃったんじゃない?
複雑に考える時代があるじゃないですか?なんでも世の中の流れと時代があって。銀河鉄道を書いていた時に、宮沢賢治がいた時代にはそういう複雑なことを皆考えていたのかな?
どうなんだろうね?でも、皆がそんな風に考えてたらもっと売れてたかもね(笑)宮沢賢治も。
あぁ(笑)。
生前は全然売れてなかったんですか?
そうだったと思うよ、確か。ちょっとうる覚えだけど、だって、死んだの37才だもん。
若い!若いですね。
ほら、「春と修羅」を出して、その後農業を頑張っちゃってるから。
あぁ、農業で生きてたのか。
うーん、36才だからね、私いま(笑)。
そろそろ銀河鉄道の夜書かないとね(笑)。書いてないの?メモに「私はこういう人間になりたいって」。
書いておかないとね(笑)。でも、毎日日記みたいなのは書いてるよ。
へぇ。
書いてるうちに「この時こんなの書いてたのかって」面白いよ。
自分も10年日記っていうのを書いていて、10年分がこう縦に並ぶんです。3年前の今日こんなことやってたんだな、みたいになってくるのが結構面白くて。
面白い?
はい。今は5年目くらいになんですけど、そうなってくると 「これくらいの時期になると風邪ひくな」みたいな、自分の一年間の周期が分かってきたりして。
なるほど。
あと、「この作家さんが気になる」っていうメモを書いていて、書いたことすら忘れてたのを2年振りくらいに目にして、その本を買って読んだり。
自分のデータをとっておくみたいな形だよね 。
ですです。自分のデータ。
話は戻りますが銀河鉄道の夜って、とても有名な作品ですよね。
有名過ぎてちゃんと読んでない人も多いんじゃないかな?と思って。
いやー、確かにね。
なんとなく話は知ってるとか、タイトルは知ってるけど…みたいな。
皆ちゃんと読んだことあるのかな?自分が一番記憶に残ってるのはアニメで見た銀河鉄道の夜で、あれNHKだったかな?あれはすごい印象的だった。なんか不思議な世界だなぁって。
絵としても凄い絵になるもんね。
これさ、銀河鉄道の夜って、この漫画というか、絵を描いているのは誰がこの猫にしたの?
これはね「ますむらひろし」っていう漫画家がいて、描く漫画が全部猫なんだよ。その猫を使って銀河鉄道の夜を書いてるの。
あぁ、そうなんだ!猫の印象がめちゃくちゃ強い。
そうでしょ。
漫画で読むのと活字で読むのは印象が結構違う?
違うと思う。活字で読んだ方がやっぱりさ、なんか本当に独特な言葉の使い方をするからさ、宮沢賢治って。 オリジナルの語彙みたいなのも多いし。
でも面白いのが、ますむらひろしが漫画化したときにさ、どの位置にどの星があるのか?っていうのが、小説の中に文字で正確に書いてあるんだって。
へぇ。
だから絵に書くときにそこに凄い気を使ったって。白鳥座が出てきたり、サソリ座が出てきたりする時に、ちゃんと正しい位置に出てくるんだって。
すげえ。
なんかね、そういうのもすごい気を使っていて。
そういうのも含めてマメな人なんだね?
真面目な人。
真面目な。真面目な人じゃないとあんなメモ書き残せないよね。あんなふうに考えられないもんな。
どんな人になりたいですか?
わたし?
うん。
わたしはこう、もっとのびのびしたらどんなになるかな?っていう感じ。 のびのびして、全部発揮したらどこまでいけるかな?って試したいって感じ 。
あぁ、いいですね。
なんかさ将来の目標とかって全然考えられなくて、いつもやりたい事っていうのが次々やってくるから、それをとりあえずやってみたい。
そうなんだ。なんか、たぶん自分はいろんな事をやってみたいと思ってるんだけど、ずっと思ってるのは、自分を追い詰めたいんですよ。
へへ、そうなの?
自分を追い詰めたくて。なんか、そういう瞬間が好きなんです。「やべぇ、こんなとこ来ちゃった」ってなるけど、それを沢山やりたいですね。
でもなんか逆説的だけど、私ものびのびしたいと思って、やりたいことやりたいって思うとそこに行くためには追い詰められるの(笑)。
そうだよね(笑)。
追い詰められると殻が破れてのびのびできるじゃない。
そうね。
私いつもそんな感じ。いつも辛いところに追い詰められたりする。自分で。
「できるかな?無理かな?」って思いながら「やります!」って言ったりする。
大事ですよね。タモリさんが言ってた。仕事とかは「ちょっと今の自分には厳しいかな?」くらいの話が来たら、それはもうそれをやるタイミングだから全部受けろ、的な話をしていて。
そうだよね。成長願望みたいなのが凄いあるから。
あぁ、美咲さんはそうだね。
ただのびのびしてても成長しないじゃん。
成長願望ってなんなんだろうね?確実にある人、ない人がいる。
そうだよね。タイプの違いがある。
うちの奥さんは成長願望が無いタイプ。成長したいとか、何かを学びたいとか聞いた事無い。
すごいね。
全然聞いたことない。
もうそれはさ、ただのタイプの違いだよね。
そうそう。
結局さ、成長したいタイプもいるし、うちの奥さんみたいなタイプもいるし。でもそれぞれ求めてるものはその人の自身の幸せじゃない。それぞれに幸せな状態があって、こっち側はなんか成長したりとか、そういうものがないと焦っちゃったりするから。
そうだね。私この状態(寝ている犬を見ながら)になったらもう死んでもいいんじゃない?ってなっちゃう生きてる意味ないんじゃないかな?って。
そうそう。この状態になっちゃったら、なんか「こんなんでいいのか?俺は?」ってなるし。
じわじわ病んでく。
自分に合う生き方をした方がいいなって思うよね。健全だよね。
そうですね。
最後に、銀河鉄道の夜、どんな人に読んで欲しいと思いますか?
あぁ、どんな人かな?皆読んでるけど、もっと深く読んで欲しい。
銀河鉄道の夜はやっぱ夜読むのかな?昼かな?
夜がいいよね。朝じゃない。美しいから。
一人で静かに読んで欲しい。
お話しを伺った感想を少しだけ:
銀河鉄道の夜、確かに知っているようできちんと本で読んだことがないです。皆さんはいかがでしょうか?
生と死の間にある不思議で美しい世界を小説にし、そんな難しいテーマを扱っているのにも関わらず誰でも知っている名作として多くの人に愛されている。すごいことですね。しかも未完。生前に出版した本は2冊だけ…! 宮沢賢治、どんな人だったんだろう?と興味がわきました。
「雨ニモマケズ」
雨にもまけず
風にもまけず
雪にも夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち
欲はなく
決して怒らず
いつもしずかにわらっている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜をたべ
あらゆることを
じぶんをかんじょうに入れずに
よくみききしわかり
そしてわすれず
野原の松の林の蔭の
小さな萓ぶきの小屋にいて
東に病気のこどもあれば
行って看病してやり
西につかれた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行ってこわがらなくてもいいといい
北にけんかやそしょうがあれば
つまらないからやめろといい
ひでりのときはなみだをながし
さむさのなつはオロオロあるき
みんなにデクノボーとよばれ
ほめられもせず
くにもされず
そういうものに
わたしはなりたい
鈴木美咲さんが紹介してくれた大切な本の一覧はこちら
1,「銀河鉄道の夜」
2,「旅をする木」
3,「ユルスナールの靴」
4,「バルザックと小さな中国のお針子」
5,「美の浄土」
6,「引き寄せの法則-エイブラハムとの対話-」
7,「ゾクチェンの教え」