“新しい”って楽しいですよね。それが好きでない人もいるけど、私は”新しい”がことが楽しい。それがちょっとでも自分のアンテナに引っかかったら、なおの事楽しい。


タイトル:錦繍
著者:
宮本 輝
紹介者:菅原 裕
内容紹介:Amazonより
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る―。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。


タイトル:手から、手へ
著者:
池井 昌樹
紹介者:菅原 裕
内容紹介:Amazonより
どんなにやさしいちちははも、おまえたちとは一緒に行けない。どこかへやがてはかえるのだから。詩と写真でつづる、あなたにとっていちばん大切なもの―家族のものがたり。

大学生の時に宮本輝っていう作家にすごいハマりました。今はもう新刊が出ても買わなくなったけど、当時すごい好きだったんですよ。「錦繍」っていう小説ご存知ですか?

新潮から出てるすごく薄い文庫で。別れてしまった、離婚した夫婦が手紙のやりとりだけで、8回くらい往復するのかな?たまたま蔵王のロープウェイで何十年か振りに会った元夫婦が、そのあとに手紙でやり取りするっていう。

自分たちがあの時ああだった、こうだったとかっていうのが、手紙の文面だけだけど、ほんとにその結婚してた当時の情景が思い浮かぶような本で。最後は別に再会して燃えあがるとかないんですけど、フィクションだとこれが一番好きかな。

人間、ていうかまぁ恋愛ですよね。人を想うってこと、情っていうものが伝わってくるの本で、すごく好きです。

錦繍ってこういう字を書くんですね。

にしきに刺繍のしゅうですね。往復書簡でこんな小説書けるんだ、っていう衝撃的な本でした。

一通一通の手紙を読んでいく事を通していろんな関係性が見えてきて?

そうなんです。うまいなぁ!と思って、それで宮本輝を好きになりました。「花の降る午後」「避暑地の猫」「青が散る」とかいろいろあるんですけど、ダントツで「錦繍」が好きだった。

良いのか悪いのか、作風が固定されてきちゃったように感じてからは読まなくなりましたが、「錦繍」はとても好きでした。

で、そこからちょっと成長して。

成長して?

「手から、手へ」という詩集なんですよ、 池井昌樹さんという人が書いた。これ、小学校だか中学校の教科書に「ゆずりは」という詩が載ってたの覚えてますか?

ゆずりは?

「ゆずりは」。うんとね、結構有名で、これ読んでみて欲しいんですが。

お父さんとお母さんから、ゆずりはって新しい葉っぱが出てくると、古い葉っぱが落ちるんですよ。だからまぁ、世代を次に移していくっていう、お前たちが明るい未来なのだから、というような類の内容の詩なんです。お父さんとお母さんから語りかける体の。

読み聞かせをやっている上甲知子さんという方がいて、イベントで大人向けの読み聞かせをしたんです。その時に読んでくれてとても感動したんですよね。だから買ったんだけど、なんかねぇ、自分で声に出して同じように彼女の真似して読み聞かせしたら全然だめだった。まったく伝わらなかった。

違うんですね。

そう、違うものになってしまいました。

人から読まれて聞くのと、自分で読むのとで全然違うんだ!ってびっくりしました。でもね、兄のところに姪が二人いるんですけど、姪っ子たちにはだいぶ読みました。 河井酔茗の「ゆずりは」を。

今回紹介にはあまり入れなかったけど、詩もすごく好きです。茨木のり子の「自分の感受性くらい」とか、谷川俊太郎も好きです。


ゆずりは / 河井酔茗

こどもたちよ、
これはゆずりはの木です。
このゆずりはは
新しい葉ができると
入れ代わって古い葉が落ちてしまうのです。
こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉ができると無造作に落ちる、
新しい葉にいのちを譲って。
 
こどもたちよ、
おまえたちは何をほしがらないでも
すべてのものがおまえたちに譲られるのです。
太陽のまわるかぎり
譲られるものは絶えません。
 
輝ける大都会も
そっくりおまえたちが譲り受けるものです、
読みきれないほどの書物も。
 
みんなおまえたちの手に受け取るのです、
幸福なるこどもたちよ、
おまえたちの手はまだ小さいけれど。
 
世のおとうさんおかあさんたちは
何一つ持っていかない。
みんなおまえたちに譲っていくために、
いのちあるものよいもの美しいものを
一生懸命に造っています。
 
今おまえたちは気がつかないけれど
ひとりでにいのちは伸びる。
鳥のように歌い花のように笑っている間に
気がついてきます。
 
そしたらこどもたちよ、
もう一度ゆずりはの木の下に立って
ゆずりはを見る時がくるでしょう。 

うーん、素敵。

この詩を読んで、あと何年人類が生きるか分からないけど、とりあえず自分が生きてる間は「よく生きたい」と思いました。よくっていうのは、上手くとか、お金持ちとかそういう「よく」じゃなくて、人に迷惑をかけないで、人としてよく生きたいと思いました。よい人間で生きたいと思った。

それと、読み聞かせっていう方法と自分で読むっていうのがこんなにも違うっていうのがびっくりした本でしたね。

人の声って皆違うじゃないですか。

違いますね。自分の声だって人が聞いているのと自分が聞いているのは違うし。

なんかその、声の魅力ってありますよね。すごく染み渡る声の人もいるし。

うん、耳心地のいい声ってありますよね。

ちょうど一昨日、美咲さん(本と人で菅原さんの次に本を紹介して頂く方です)と話をした時に、美咲さんもすごく良い声をしていて。

その美咲さんが小学校、中学校の時とかに、あの、イケてるグループ、ちょっと地味目なグループみたいなのあるじゃないですか?

いつもその2つのグループの間で橋渡しをするような役回りになるんだ、みたいな話をしていて「はぁー、そうなんだ。」と思いながら、帰ってインタビューの音声を聞いていたら「あっ、これって美咲さんの声のせいなのかな?」って。声がなんか包み込む優しい感じがあるからなのかな?って思ったりして。

朗読とかも、誰が読むのかとか、場所だったりで全然違うんだろうなって思いますね。

そう聞くと美咲さんの声を聴いてみたくなります。

あぁ、そうですよね。

なんか不思議ですよね。そもそもなんで顔の形が違うのか?も不思議だけど、目の大きさが小っちゃいとか大きいとか、顔が長いとか丸いとか、なんででしょうね。だからそれも知りたいことの一つで。人ってどっから生まれたんだろう?って。

すごいなって思うんですよね。目の上に線が一本あるかないかで美醜が決まったりとか、ほんとにそれだけでモテる、モテないとかあるし。例えば私身長が低いんですけど、163cmで。平均が170cmちょいくらいで。といってもですよ、じゃあ180cmの男がモテるって言っても、20cmってこんなもん(右手を広げながら)ですよ、こんなもんの違いで、人間として差があるか?って言ったら…

全然ない(笑)。

別にないじゃないですか(笑)。

だけど、それが厳然たるものとして存在するじゃないですか。なんなんだろうな、この人間の感覚は?って思ったりしますね。すごい良く出来た機能だなとも思いますけど。

だけどね、知りたいわりには、じゃあなんで声が違うのか?って勉強すれば声帯が震えるなんちゃらが違うから、とか、物理的には違いって分かると思うんですけど、別にそこまで知りたくない。そこはね、なんか知らなくてもいいところで、興味あるんですけど、全部知っちゃったら面白くないじゃないですか。

たまたまそういうのを知る機会があったら、それはそれでいいですしね。

そうですね。年上の友人と一緒に聞いた脳科学のお話しで、人間がコミュニケーションをとりながら意思を伝えあって付き合える適正な人数だとか、親から子へ遺伝すること・しないことだとかを聞いたんですが、ストンと素直に納得できる内容がすごく多かった。だからたまにはプロの話を聞くって大事だなと思いました。

震災がきっかけで66歳の友人が福島にできて、仲良くしてもらってるんです。その人のところに先日泊まりに行ったら「今日脳科学の話を聞きに行きたいから一緒に行こう!」って言われて、全然興味がわかなくて正直「行きたくない…」って思ったけど、行ってみたらすごく面白くて良かったなって(笑)。

大事ですね(笑)。

人に誘われたことはこの一年間一切断ってないです。ご飯食べに行こうって言われたら、よっぽど無理じゃなかったら必ず行くし。人が私に声かけてくれたら、とりあえずその人にとって一瞬でも菅原裕という人間が声をかけるに値するものだって思ってくれてるんだったら、もう全部それは受けようって思って。なので今年一年すごい出費が多いんですけど、とても楽しいです。

あぁ、素敵ですね。

新しい事を知れるし、知らないところに連れて行ってくれたりするから。

分かります。なんかこう、皆生きてる世界が違うから。それぞれ自分にとっての当たり前の世界があって、だけど他の人と触れ合ったり、何かに誘ってもらったりして、全然知らなかったり興味なかったりしても行ってみると「はぁぁ、こんな世界あるんだ!」ってことがありますよね。全然分からないってことも含めての面白い体験。

“新しい”って楽しいですよね。それが好きでない人もいるけど、私は”新しい”がことが楽しい。それがちょっとでも自分のアンテナに引っかかったら、なおの事楽しい。「あぁ、今日はいい一日だった!」って、その脳科学の話聞いた時思いましたもん。

だから、知らない人と知り合うってのはすごい大事だなって。自分が好きなものって自分しか知らないし、自分が決めちゃうじゃないですか。人にやらされるって、言い方悪いけど、引っ張っていかれるってのは、嫌でも見せられちゃうんだけど、見せられたものが面白かったら超ラッキー!って。

なんか、つまなかったっていう事自体も面白い出来事ですよね。

個人的に思ってる事として、ご飯屋さんに入って「まずい!」って面白いなって思ってるんですね。「明らかにまずいな!」っていうお店って減ってると思うんです。今は色んな評価とかがあって、そんな中で「よくこんなまずいものでてくるな!」と。作ってる側として味見した事ないのかな(笑)?みたいに思ったりして。それはそれで凄く楽しいです。

めちゃくちゃまずいラーメンとか「マジでこんなまずいの!?」みたいな事があって。良いことも、勉強になることもならないことも、つまんないこともひっくるめて、新しい体験って面白いですね。


お話しを伺った感想を少しだけ:

恋愛の才能が無いと自ら話す菅原さんが選んだ恋愛小説、錦繍。そこから成長して出会った、親から子へ命を引き継いでいく、手から手へ。恋だったり愛だったり、生きていくうえで欠かせないテーマ。当然ものすごーくたくさんの方が扱っているテーマですが、恋に不器用な菅原さんが選んだ本だからこそ気になる2冊です。

また、そこから話が膨らんで菅原さんが話してくれた「人に誘われたことは断らない話」も非常に共感できるお話しでした。大人になって自分がある程度出来上がってしまっているからこそ、新しいもの、未知なものにオープンでいる事の大切さを私自身も感じています。


菅原裕さんが紹介してくれた大切な本の一覧はこちら

1,「長くつ下のピッピ
2,「ワーズワースの冒険
3,「リトル・トリー
4,「邪宗門」「大本襲撃」 「放送禁止歌
5,「錦繍」「手から、手へ
6, 「Michi みち